汽水域 Ki-sui-iki

ローカルとオルタナティブ 浸透し混じり合うところに生まれる生態系

【プロ野球】日本シリーズ緒戦に勝ったチームは本当に有利なのか

福岡ソフトバンクホークスDeNAベイスターズの対戦に決まった2017年の日本シリーズ。10/28より日本一を賭けた戦いが火ぶたを切って落とされます。スポーツの世界でよく言われるのが先手必勝ということ。短期決戦の日本シリーズでは緒戦を取った方が有利と言われますが本当なのか。確率と統計を比較して検証してみました。

 

 

「勝ったら勢いに乗る」は本当か

4戦先勝方式で行われる日本シリーズ。開幕前夜の勝敗予想などで必ず言われるのが「緒戦を取った方が有利」ということ。確かにあらゆるスポーツ、勝負事の世界では先手必勝ということが言われます。

ここに解説者などが「先に勝った方が勢いに乗れる」「相手にプレッシャーをかけられる」などとメンタル面の理由を挙げて解説してみせるのが通例です。もちろんファンの関心を煽るにあたって直近の試合を持ち上げるのは当然のこと。「緒戦は負けてもOK」などとは言いにくい。果たして、本当に緒戦を取ったチームは有利なのでしょうか。

 

短期決戦では先手を取った方が有利だが

日本シリーズはセ・パ2リーグ分立後の1950年の開催が第1回。それから2016年まで67回行われています。そのうち、緒戦勝利のチームが日本一になった回数は42回。割合でいえば62.9%になります。反対に緒戦敗れたチームの日本一は37.1%ということになりますから、圧倒的に緒戦勝利チームが有利のように見えます。

とはいえ、緒戦勝利チームはあと3つ勝てば日本一なのに対して、緒戦敗北チームは先に4つ勝たなければいけないわけです。仮に第2戦から始めたつもりで考えれば、緒戦勝利チームに1勝のアドバンテージがある状態です。短期決戦でこの差をひっくり返すのは意外と難しいかもしれません。

緒戦勝利の有利さというのは、このアドバンテージによってもたらされるものではないのか?「勢い」や「プレッシャー」などメンタル的な差が生じるわけではないのではないか?という疑問があります。

 

「勢い」ではなく「1勝のアドバンテージ」の差

そこで確率を計算してみました。両チームの実力は同じものとし、勝つ確率は全試合で50%ずつとします。それで計算したところ、緒戦勝利したチームが日本一になる確率は65.6%となりました。

つまり、計算上の確率と実際の統計データはほぼ同じ。微妙に統計データの方が低いことが分かります。もしも緒戦勝利によって「勢いに乗った」、または敗北によって「意気消沈した」ということがあれば、確率より統計の方がよい数字にならなければいけません。つまり、緒戦勝利チームの有利さというのは、先に勝った1勝のアドバンテージによるもので、メンタル的に両チームの勢いに差がついているわけではないことが分かります。

もちろん、先に勝ったチームは残り試合3勝3敗でもOK、負けたチームは最低でも4勝2敗が必要、となりますから、この1勝のリードは非常に大きいわけです。とはいえ、追いかけるチームもプレッシャーから無理な戦いを強いられるわけではなく、メンタル的、戦術的にまだまだ互角に戦える状態と言えるでしょう。少なくとも「緒戦勝利で勢いがつく」という言説を裏付けることはできませんでした。

 

勝って生まれるのは「勢い」より「油断」

同じように日本シリーズの途中勝敗別に計算と統計からの日本一になる確率、そしてその差を出してみました。(なお、勝敗がタイの場合は、どちらかのチームが日本一で、もう一方は敗退になるため、計算も統計もすべて50%になるので省略してあります。)

 

勝敗 計算 統計 マージン

1-0 65.6% 62.9% ▲2.7

2-0 81.3% 74.3% ▲7.0

2-1 68.8% 74.0% +5.2

3-0 93.8% 82.4% ▲11.4

3-1 87.5% 87.9% +0.4

3-2 75.0% 72.1% ▲2.9

 

ここから分かることは、計算より統計の方が上回っているのは「2勝1敗」と「3勝1敗」のケースです。「3勝1敗」はほぼ差が無いので、計算上の確率よりも実際の方が有利になっているのは「2勝1敗」のときのみということが分かります。

この場合はリードしているチームの方に「勢いがある」と言えるかもしれません。(誤差の範囲かもしれません。)

それ以外の状況では、リードしているチームは計算上ほど有利とは言えません。「2勝0敗」「3勝0敗」のケースでは、そのまま日本一になることは期待よりも少なく、リードを許したチームが大逆転で日本一を果たす可能性は期待以上にあると言えます。

このことは、連勝したチームの方に油断が生じるからなのかもしれません。反対に連敗したチームの方は、それによって戦意を失うことなく、むしろ闘志に火が付くと言えそうです。

 

短期決戦の日本シリーズは先手を取ったチームが有利なことに違いはありません。しかし、流れ、勢いという意味ではリードを許した方のチームに反発力が生じやすく、シリーズは接戦にもつれ込みやすい傾向にあると言えるのではないでしょうか。

さて、今年の日本シリーズはどのような展開になるでしょうか。