マイ・ブックショップ
ロンドン近郊の海辺の小さな町で、外からやってきた未亡人が本屋を開く話。
と言っても心配しないでほしい。ときは1959年。レンタルビデオも無ければスマートフォンも無い。強欲なジェフ・ベゾスと彼の宅配ネット書店もまだこの世に存在しない。
町の人の用事はボーイスカウトの少年たちが手紙を運んで伝えている。BBCの職員という男は、いつも町をふらふらしていて働いている様子が無い。貧しい家の子どもが働いているのは誰もが知っていて黙認している。石造りの町並みとくすんだ海岸の風景は美しいが、他には何も無く退屈で、そのために若い女はBBC職員の男を振って大きな街で別の男と暮らすことを選ぶ。
そんな時代だから、町に一軒だけの本屋ならそれなりにやっていける。この町に本屋が無くなった理由は、当時の店主が客を殴って気絶させたからだという。
その代わり、彼女が闘わなければならないのは、保守的な田舎の空気だ。女性を軽んじる銀行員や無能な弁護士、噂話が好きな婦人たち。うわべだけの親しさは、よそ者を監視するためのものだ。
そして、町を牛耳る女主人・ガマート夫人は、彼女と本屋を追い出して、あとに「芸術センター」なるものをつくろうと目論んでいる。
「私もあの建物を買おうかずっと前から検討していた」
そんな言い方で建物を譲るように迫る。横暴な夫人をとがめる者は誰もいない。「濃密な人と人とのつながり」が息づく田舎では、多くの人がここで暮らしていくために有利な行動をためらわずに選ぶからだ。
それでも彼女の味方もいる。数十年家に引きこもっている本好きの老紳士ブランディッシュ氏と家計を助けるためにも本屋を手伝うことになった小学生のクリスティーンだ。
彼女がブランディッシュ氏のために選んで届けた最初の本は、『華氏451』だった。これは、この物語が本を守るための戦いなのだということを暗示している。彼女はこの戦いに敗れたのか、勝ったのか。ガマート夫人の計画を揶揄してブランディッシュ氏は言った。
「芸術にセンター(中心)は無い」
もしも本屋が燃えて無くなったとしても、それは敗北ではないのだ。
歴史にも新聞にも残らないささやかな戦いの後に何が残ったのか。その答えは最後の場面に現れる。ここに映っているものだけが存在し、映っていないものはきっとあの美しい風景だけを残して滅びてしまったのだろう。
原作はブッカー賞受賞作家ペネロペ・フィッツジェラルドの「The Bookshop(原題)」。
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マイ・ブックショップ(La libreria)
2017年 スペイン
出演:エミリー・モーティマー、ビル・ナイ、パトリシア・クラークソン
監督:イザベル・コイシェ
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