汽水域 Ki-sui-iki

ローカルとオルタナティブ 浸透し混じり合うところに生まれる生態系

ジーサンズ はじめての強盗

ジーサンほど銀行強盗がよく似合う生きものはいない。

 

マイケル・ケインモーガン・フリーマンアラン・アーキンという3人のオスカー俳優が、銀行強盗を画策する怒れるジーサンを演じている。クリストファー・ロイドも味のあるボケ老人を好演。

 

 

ブルックリンで離婚して戻ってきた娘、孫娘と3人暮らしのジョー。悠々自適の年金暮らしのはずだったが、ある日、住宅ローンの不払い通知を受け取る。企業からの年金支給が停止されたことと、銀行のローン担当者の口頭説明に反して利払いがはね上がったことが原因だ。

 

銀行に掛け合いに行ったジョーは、偶然、銀行強盗に遭遇し、その華麗な手口に感銘を受ける。

 

年金は銀行が主導する企業の合併によって消滅したことが判明。住宅差し押さえの危機に直面したジョーは、会社の元同僚で友人のウィリーとアルバートを誘い、奪われた年金を銀行強盗で取り戻そうと画策する。

 

ネットを使いこなし、離れて暮らす孫娘とチャットするのが楽しみのウィリーは、重度の腎臓疾患で余命いくばくも無いことが判明。ジョーの計画に参加を決める。

 

マチュア・ミュージシャンとして余生を送っていたアルバートも、友人二人に巻き込まれる形で参加することになる。

 

ジョーは、元娘婿で自称起業家のマーフィーの人脈から、悪党のヘスースを講師役に迎え、完璧な準備をして銀行強盗に臨むのだった。

 

この映画の背景には、年金破綻、住宅ローン問題、医療保険問題、中流層の消滅などアメリカが抱える社会問題がある。そして、物語の舞台であるブルックリンは、庶民の街から再開発によって最先端のヒップな街に生まれ変わったところ。変貌するアメリカの都市をもっとも象徴的に表している街だ。ロバート・デ・ニーロの『マイ・インターン』もブルックリンを舞台にした老人の物語だった。

 

もちろん、老人たちは彼らの子や孫の世代と比べれば恵まれている。普通の労働者でも家庭を築いて中流の暮らしができ、働かなくても暮らしていけるだけの年金を受け取れるのだから。しかし、約束されたささやかな幸せはある日突然泡と消え、彼らは社会でもっとも力の弱い者に成り下がってしまう。

 

社会問題よりさらに奥にある背景として、激変する現代社会の中で「ジーサンが存在する意義はあるのか?」という難しい問いかけが控えている。少子高齢化の進む日本でも「老害」という言葉をよく聞くようになってきた。

 

生物学的にいえば、ジーサンは役割を終えた生き物だ。人間は家族で暮らし、群を構成する生き物だが、子どもの養育が終わり、能力が衰えてくれば、若い頃と違って働きを求められなくなる。

 

バーサンであれば、家事や子守の役に立つし、コンビニやスーパーのレジ打ちもできる。しかし、たいていのジーサンはそうした仕事の役には立たない。

 

閉鎖的で変化が乏しい時代であれば、ジーサンの知識や経験が重宝されることもあった。しかし、人類は活版印刷の発明以降、外部記憶装置をどんどん発達させてゆき、民主的で開かれた教育システムを構築することで、ジーサンが独占してきた知識と経験をフラットな場へと奪い去ってしまった。さらに、技術と社会制度の変革のサイクルが加速度的に速まってきたことで、有用な知識を持っているのは、古い人間ではなくもっとも新しく教育を受けた人間である、という事態が出現してしまった。

 

人類は長い歴史の中で、頭脳と肉体の能力が衰えるジーサンのメンツを潰さないためのシステムを巧妙に構築してきた。長幼の序という倫理に裏打ちされ、年齢階梯制を発展させた、知識と経験とコネの蓄積が取り柄のジーサンに権力を集中させた社会システムだ。

 

しかし、社会の変化のスピードが上がり、なおかつ、老人寿命が急激に延びた現代では、このようなシステムは社会全体に対して利益を生まず、コストだけが過度に膨れあがるようになってしまった。古いシステムを盾に権柄尽くに振る舞い、「若い者には負けん」と息巻けば、すなわち、それが「老害」になる。

 

では、ジーサンに存在する価値は無いのだろうか。ジーサンは何のために生きればよいのか。

 

そのヒントはこの映画の原題にある。

 

Going in Style

 

「in Style」は、かっこよく、立派に、堂々と、豪勢に、洗練された様子で、といった意味になる。つまり、「かっこつけて行こうぜ」。長い年月をかけて洗練された、その生き様を見せるのだ。醜くあってはならない。やせ我慢でも、かっこよくなければ。

 

そして、そのスタイルがもっとも発揮されるのが、銀行強盗である。

 

ジーサンには銀行強盗がよく似合う。若いやつらではこうはいかない。ギラギラした未熟な欲望が脂のように沁みだしてきて、臭くてかなわない。

 

人生の成功を測るものは、金でも権力でもない、人脈でもない。時間をかけて少しずつ、雨水が岩を削るようにして、そうした欲望を削ぎ落とした先にできあがるスタイルだ。

 

銀行強盗をやってみろ。そこに人生が表れるのだ。

 

 

ジーサンズ はじめての強盗

原題 Going in Style

2017年アメリカ 配給:ワーナー・ブラザース映画

上映時間:96分

監督:ザック・ブラフ

主演:モーガン・フリーマンマイケル・ケインアラン・アーキン