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ローカルとオルタナティブ 浸透し混じり合うところに生まれる生態系

【プロ野球】投手中心のチーム作りは息苦しい減点法の日本式生産管理の象徴だ

2017年のプロ野球が開幕しました。開幕直前に順位予想をした手前、蓋をあけたところでの答え合わせと反省をしてみたいと思います。そして、やっぱりジャイアンツは優勝できそうにないなあ、というお話などもしてみたいと思います。

 

プロ野球が開幕して2週間(厳密には15日)が経過しました。4カードが終了し、5カード目に突入、各チームまだ対戦していないチームもあるという状況なので、もう少し試合数をこなさなければはっきりした戦力分析はできないと思いますが、ひとまず、「蓋をあけてみた」ところで、開幕前の順位予想の反省をしてみたいと思います。

 

パ・リーグ

イーグルスバッファローズが好調、ライオンズもまずまずの位置につけています。春の珍事かもしれませんが、選手起用に信念や哲学を感じるところもあり、単なる好調だけでは片付けられないと思います。特に楽天の「2番ペゲーロ」は日本野球の常識を覆す戦術で、心情的にはなんとか成功してもらいたいです。いきなり優勝とはいかないまでも、昨年下位に沈んだチームがなかなか落ちていかず、混戦を演出するのではないかと思いました。

 

マリーンズはチーム打率が2割を切るという惨状で下位に沈んでいますが、理由がはっきりしているので、打線の復調とともに徐々に浮かんでいくと思います。

 

世の期待とうらはらに私がBクラス予想したファイターズですが、大谷翔平の故障離脱で的中の芽が出てきました。このまま、終わるとは思えませんが、浮上も決して容易ではありません。

 

そして、優勝予想をしてしまったホークスも故障者続出で苦戦をしています。選手層が厚いので穴が埋まりそうなものですが、どうもそう簡単にはいかないようです。昨年も和田と柳田の離脱後、成績が急落していました。評論家がよく使う「選手層が厚い」という評価のメリットについては考え直してみる必要があるようです。

 

経験の乏しいチームが上位にいるため、このままで進むとは思えません。かなりの混戦になっていくのではないでしょうか。

 

セ・リーグ

カープが引き分けを挟んで10連勝を記録。首位を突っ走っています。ジョンソン、中崎が離脱しながらのこの成績にはチーム力の深さを感じさせます。これだけトラブル対応力が高いとなかなか大崩れが無いように思います。

 

スワローズ、ベイスターズは打線の不調によって下位に沈んでいますが、そのうち浮かんでくるでしょう。特にスワローズは投手陣が下馬評より安定しており、上位躍進が期待されます。

 

ドラゴンズは思ったより地力がありませんでした。しかし、投手陣は意外とがんばっており、きっかけさえあれば調子を上げてくるかもしれません。

 

タイガースは糸井加入効果で打線が活発。カープを破った唯一の球団として現在、2位。クライマックス争いに加わりそうです。とはいえ、他チームの不調に助けられているところもあり、これから真価が問われることになるでしょう。

 

ジャイアンツは早くも5連勝と5連敗を経験。開幕5連勝中から不安要素はあり、しかもまだそのすべてが出切ったとはいえません。上に行くか下に行くか微妙なところです。

 

開幕前の混戦予想に反し、カープに独走の可能性も出てきました。ドラゴンズを除く4球団は混戦でしょう。この中からカープを追撃するチームが出てくるでしょうか。

 

ジャイアンツが勝てない理由

さてここで再びジャイアンツの分析をしたいと思います。以下に書くことは開幕5連勝中から徴候が見えており、その後の成績下降の予感を感じていました。とか言うと、後出しジャンケンで卑怯なのは百も承知ですが、正直いえば、もう少し長く好調が続くだろうと思っていました。こんなに早く成績が落ちるのは予想外でした。そして、これからまだ落ちる要因も残っていそうです。

 

投手陣はそんなに悪くない

まず、投手陣はそんなに悪くありません。開幕5連勝中はチーム防御率が2.3程度と驚異的な数字を叩きだし「このまま行くわけはない」と思いましたが、3試合で29失点とタコ殴りにされたカープ3連戦を経ても3点台の防御率をキープしています。

 

先発は試合を作れる投手が6人いて、抑えも不安があるとはいえ、それは他チームも事情は同じ。よくやっているといえるでしょう。

 

ちなみに、ローテーションの6人は吉川以外昨年と同じ。FAの山口は出遅れでも、まだ杉内と高木が余っています。正直、補強のポイントを間違えたようにも思います。

 

開幕5連勝中のようにほぼ完璧に抑えることを要求するのは無理があります。この投手陣で勝てないとすれば、むしろ打線に問題があるのではないでしょうか。

 

阿部慎之助に頼り過ぎ打線

打線は4番の阿部が絶好調です。現在、本塁打と打点の2冠王、このままのペースでいけば200打点も夢ではありません。しかし、当然、そんなペースでいくわけはない。阿部に頼り過ぎているという印象です。

 

坂本が出て、阿部が返す、勝負を避けられたらマギーがいる、というのがジャイアンツの基本的な得点パターン。先発陣が失点を最小限に抑えて接戦に持込めば、どこかで阿部がなんとかしてくれる、という感じで勝っています。

 

しかし、その微妙なバランスで成立した勝ちパターンが崩れると途端に勝てなくなります。クリーンアップの3人以外は打撃が不調です。大量点は難しいので、投手陣が崩れると逆転は不可能になります。

 

しかも、まだ阿部が好調の中で5連敗をしてしまいました。もし、阿部が絶不調に陥ってしまえば、さらに得点力は下がります。そして、年齢が高く故障歴がある阿部が開幕から大車輪の活躍をしているのにもイヤな予感がよぎります。万が一、パンクしてしまえば取り返しのつかないことになるでしょう。

 

どれだけ層の厚いチームであっても「替えの効かない選手」の代わりはいないのです。

 

1番、2番の出塁率を上げよ

阿部の負担を軽くして得点力を上げるためには、1、2番の出塁率を上げることが必要です。

 

1番中井、2番立岡の出塁が絡むと大量点に繋がっています。しかし、実際には二人合計で打率.220、出塁率.265とチャンスを作れていません。この状況で阿部が打点を稼げているのは、坂本と阿部の超人的な活躍があるからでしょう。1年間これが続くと思ってはいけません。

 

そもそも、中井、立岡というのはジャイアンツ打線の中ではネームバリューが低い選手です。もちろん、若手の有望株を抜擢するのはいいことですが、大補強を行ったわりには顔ぶれが軽量です。補強のポイントを間違えたのか、このポジションを軽視しているのか。開幕から固定して起用しているということは、高橋監督が信念を持って抜擢したということでしょうから、辛抱が実を結んで成績が向上して欲しいとは思います。しかし、現時点では機能しているとは言い難いです。

 

選手層が厚くても勝てるものではない

ジャイアンツのベンチには、村田、亀井という選手が控えています。代打で起用するにはとても贅沢な顔ぶれです。特に亀井は凄まじい代打率と得点圏打率を記録しています。

 

「さすがジャイアンツ、選手層が厚い。相手チームにとっては脅威ですね」などとのん気なことを言うアナウンサーもいますが、「だったら4打席打たせた方がたくさん点が取れるんじゃないか」とも思うわけです。勝ちまくっていれば贅沢な悩みで済みますが、実際にはそれほど勝っていないわけですから、チームのちぐはぐさの象徴になってしまいます。こんな状況でも「選手層が厚い」と言って悦に入っているのは、勝ち負けの追求には興味のない独特の美意識か変態的な性癖を持つ人なのだろうと思います。

 

二軍を見れば、打者も投手も有力な選手がさらに余っています。これでは宝の持ち腐れです。とはいえ、彼らと入れ替えれば勝てるとも限らない。

 

「選手層が厚い」というのは順位予想などで解説者が多用する言葉ですが、それが実際にどれくらい役に立つのか詳細に検討してみる必要があると思います。

 

常勝巨人の建設には「2番坂本」だ

この際なので、1番右翼亀井、2番遊撃坂本という打線を提案します。3番以降は阿部、マギーと続ければいいです。(ついでにいえば、マギーを二塁手で起用し5番三塁村田という超重量打線も試す価値はあると思います。)

 

1、2番はそれくらい重要だと思います。後回しにすべきではない。特に2番は現代野球でもっとも重要な打順といってもよいです。主将の坂本を置くべきです。

 

カープには菊池、ベイスターズには梶谷がいます。どちらも出塁率が高く、長打も打てます。菊池は進塁打が打てるイメージがありますが、「必要ならそれもできる」というだけです。ちなみに打撃不振のスワローズは打順を変更し、1番から山田、雄平、バレンティンという打線を組んできました。これもやはり、1、2番を重視した「速攻型」の打線と言えましょう。

 

ジャイアンツの2番には坂本がふさわしい。どうしても坂本を3番で起用するなら、それ以上にふさわしい選手を2番に置かなければ説得力はありません。

 

日本を覆うV9野球の呪縛

日本の野球では「1番俊足、2番はバント」というイメージがあります。そのルーツは半世紀前のV9川上ジャイアンツといえるでしょう。当時は王、長嶋という伝説の選手を擁しているので強力打線をイメージするかもしれませんが、川上監督は投手中心の守りの野球を指向していました。そして、攻撃でも1点を確実に奪う細かい野球を目指しました。

 

川上ジャイアンツの成功を受けて、そのモデルは他の球団にも拡散します。中でも成功したのがV9時代に選手だった広岡、森のライオンズです。こうしてV9野球の常識は長きにわたって日本の野球を支配していきます。

 

しかし、最近ではセイバーメトリックスというビッグデータ分析により、バントの有効性が疑問視されるようになってきました。メジャーリーグでは出塁率長打率が重視され、この合計が高い選手を1番から順に並べた方がより多くの得点をあげることができるという驚きの(がっかりするほど大雑把な)分析も発表されています。

 

いずれにしても「2番はバント」という「常識」をいったん頭から追い払って、一からきちんと考えないといけない時代になったのは事実でしょう。

 

減点法の息苦しさ

野球界には「打線は水もの」という格言があります。なので、投手力を中心に安定したチームを作らなければならない、と。これは間違いではないと思います。しかし、打線を軽んじれば、投手への要求がどんどん窮屈になっていきます。

 

最近はメジャーリーグ発祥の「クオリティ・スタート」という言葉も一般的になってきました。つまり、先発投手は「6回3失点で及第点」という意味です。これは防御率では4.50となるので、それほどよい成績とはいえません。しかし、打線が4~5点取れば、これでも十分勝てます。そして、6回3失点でよいなら先発投手を5人集めることが容易になります。「毎試合7回以上投げて2点以内、できれば完投」という基準だとほとんどの投手が落第してしまいます。

 

強い打線を持てば、投手への要求ハードルを低く抑えることができます。「打線は水ものだから」と弱い打線を当たり前と考えてチームを設計すると、投手への要求が過大になってしまいます。

 

「打てば勝つ」と「打たれたら負ける」は、実際には同じことかもしれませんが、前者の方が気持ちの上では穏やかに受け入れられます。加点法と減点法の評価の違いです。(野球の場合、相手に点を取られれば減点の対象ということです。非常に紛らわしいですが、点が入ると、点を減らされるのです。)

 

加点法より減点法の方が扱い方が簡単です。ミスを発見すればいいわけですから、規格化が容易で平凡な人でも間違えずに、誰がやっても同じ結果になるように評価を行えます。そのため、ミスを発見しミスを改善することで状況を好転させようと多くの人が考えます。つまり、その方が簡単だからです。

 

それ自体間違いではりません。しかし、必要以上にミスに過敏になると精神的に押しつぶされてしまいます。失敗の原因をミスに求め、ミスを無くすべく改善することは常識的な生産管理の方法ですが、行きすぎると不毛というか滑稽なものにも成りかねません。人間はミスをする生き物ですから、ある閾値を超えてミスを減らそうとすると物理的に破綻してしまうわけです。そういうわけなので、可能ならむしろミスの許容度を上げる努力の方が必要になります。

 

野球で言うなら、投手力と打力の関係です。得点力を向上することで失点の許容度をあげるわけです。

 

負ければ打たれた投手のミスが目立ちます。それをあげつらうのは簡単です。しかし、このような減点法の評価というのがジャイアンツの躍進を阻むものである、そして、現代の日本を覆う閉塞感の原因であるように思えてならないのです。