汽水域 Ki-sui-iki

ローカルとオルタナティブ 浸透し混じり合うところに生まれる生態系

アーティスト・トーク 市原えつこ @ICC

市原えつこさんのアーティスト・トークが、1月29日東京・初台のICCNTTインターコミュニケーション・センター)でありました。市原さんは、ICCの「オープン・スペース2016 メディアコンシャス」に「デジタル・シャーマニズム——日本の弔いと祝祭」を出展しています。

 

ゲストは、なかのひとよさん。司会はICCの畠中実さんです。

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市原さんは、大根があえぐ「セクハラ・インターフェース」やおっぱいを触られるペッパーくん「ペッパイちゃん」などのセクハラ炎上プロジェクトでも有名です。

 

「デジタル・シャーマニズム」では、故人が49日間だけロボットに憑依させる新しい葬祭「デジタルシャーマン・プロジェクト」と、「日本の“まつり”RE-DESIGN プロジェクト」の一環である「都市のナマハゲ——NAMAHAGE in Tokyo」という最近の作品が展示されています。

 

性から死、そして祝祭へとテーマが遷移している市原さんですが、人間の根源にある古い記憶をなぞった神話的な昇華のような印象を受けます。用語の正しさはともかく、ナチュラルな発展のような気がします。

 

なかのさんは、20万フォロワーを有する実験的 Twitterアカウント「サザエBOT」の中の人。

 

楽天で買ったというダフトパンクのような、ストームトルーパーのような、AIBOのような白い着ぐるみで登場。ちなみに市原さんは巫女さんの格好で出てきたので、ものすごい絵面でした。コーディネートもなにも無いようでいて、サイバーパンクとしてはわりときれい目かもしれません。

 

なかのさんの正体は不明、というか、始めはいたかもしれないけど、今はもう無いようです。フォロワーの集合意識から生まれた人格、のような説明がありましたが、ようするに、『攻殻機動隊』の人形つかいのようなイメージかと思います。

 

現在では、活動の場をリアルの世界にも広げているそうで、「パクリbotみたいなもの」という古い形態から大きく進化しているようです。

 

魂の問題

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興味深かったのは、「デジタル・シャーマニズム」はもともと、その人がデジタル空間に残した「言葉」を収集して、言葉から人の「内面」の再現を試みたのだそうです。しかし、結果として、あまりそれっぽくならなかった。そこで、3Dプリンタで作った顔、声、しぐさといった「外見」の再現にシフトした。すると、そっちの方がその人らしさが感じられたということでした。

 

心と体は厳密には不可分なわけですが、わたしたちは人間の本体は心の方だと思っています。しかし、自分を自分たらしめているものは、実は心ではなく体の方なのかもしれません。『君の名は。』で入れ替わったのは、心だったのか、それとも体だったのか。体を離れた心が、わたしをわたしと呼ぶ、その心というものは果たして本当にわたしなのでしょうか。

 

なかのさんからは、49日を経過した人格データをクラウド上に集めて、天国と地獄を作ったらどうか、という提案がありました。そして、どうしても天国に行きたい人のために免罪符を販売したらどうか、という提案もありました。

 

天国と地獄、それぞれの仕様をどうするか、という話題も出ました。個人的には、まったく同じ仕様で作っても「いい人ばかり集まれば、そこは天国」「悪い人ばかりなら地獄になる」のでないかと思いました。

 

これは、免許更新の経験に基づいています。ゴールドと減点ありの講習にいる人を比べてみたら、「講習の内容の問題ではないのだな」と思いました。

 

せっかくだから、実験してみたらおもしろいのではないかと思います。

 

 テクノロジーが合理化をしない時代

他に興味深かったのは市原さんの「昔は才能がある人が宗教に集まっていた」という言葉。曼荼羅にしても占星術にしても、おそらく当時の感覚としては最新の科学だったわけで、世が世ならノーベル賞をとるような人が寄ってたかって作り上げたシステムだと思うと、迷信といって切り捨ててしまうのはもったいないような気がします。

 

それから、なかのさんのお話の中でチラッと出た「合理化に向かわないテクノロジー」という言葉。おそらく、テクノロジー=合理化というのは誤った認識なのでしょう。それは、きっと過去300年くらいのごく限られた時代のトレンドでしかない。

 

おそらく、宗教と科学は対立するものではなく、テクノロジーは合理化のためのものではありません。20世紀のごく限られた時代の現象を切り取ってラベルを貼り付けることは、それを肯定的にとらえても否定的にとらえたとしても、つまりは偏見であって、決して正しい答えを導き出すことはないのでしょう。

 

時代は流れていき、ものに紐付いた価値や意味も変化をする。

 

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市原さんの展示は3月12日まで。2月になると、現在進行中の『都市のナマハゲ』プロジェクトの展示に映像が追加されるそうです。

それから、市原さんが在廊しているときには、観覧者から『デジタルシャーマン』のデータ収集も行いたいとのことでした。