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【おんな城主直虎】(1)アウトレイジなおじさんたちと大人びた子どもたち

大河ドラマ『おんな城主直虎』が始まった。初回「井伊谷の少女」は60分拡大版。

 

1544年、領主のひとり娘おとわと家臣の息子である鶴、亀の3人の子どもを中心に描かれる。この3人の関係が全編にわたってドラマの軸となるであろう重要な提示部だ。

 

おとわと親戚にあたる亀の婚約が決まる。ある種の政略結婚である。しかし、直後に亀の父親である直満(宇梶剛士)の今川家に対する謀反の企みが発覚。直満は今川家によって処刑され、息子である亀も命を狙われる。井伊家の面々は秘かに亀を国外に亡命させる。

 

 

井伊と今川の微妙な関係

井伊谷の領主・井伊氏が駿河の大名・今川氏の軍門に降ってから10年ほど。主家となった今川家への感情は複雑だ。一門の直満は強行派。一方、筆頭家老の小野和泉守(吹越満)は融和派。さらに小野は今川の影響力を強める工作をしているらしく、家中ではやや浮いた存在になっている。

 

当主の直盛は、今川家臣の新野(刈谷俊介)から妻もらっており、二人の間にできた娘がおとわ。直盛は家中をまとめるのに苦労をしている。

 

新野はもともと、遠江国の国衆を監視・統括するために派遣された代官だが、どちらかというと井伊の側にどっぷりはまってしまっている。(新野氏は現在の御前崎あたりに所領をもらい本拠地にしていた。)

 

おとわの婚約も、親今川・中央集権か自治権拡大か、という政略に絡むものだ。そして、今回は自治権拡大派(中でも強行派の直満は分離独立派だろう)が勝った。

 

大人の争いに巻き込まれる子どもたち

直満の子・亀の丞と小野の息子・鶴丸。子ども同士は仲がよいが、親同士は対立している。

 

熱を出した亀を鶴が背負って直満の屋敷まで運んだところ、直満の下人が鶴を罵る。これは、直満が小野を悪く言っていたのが下人に影響したのだろう。おそらく、直満本人は鶴丸を邪険に扱うまい。家来の弱い立場と直満への忠誠心が歪んだ形で鶴丸へ向けられてしまった。

 

差別やいじめの発生を仕組みを的確に捉えていて、すごい脚本だと思う。そして、おそろしくもある。

 

なお、どうしても直満が善人、小野が悪人というレッテルを貼られがちだが、直満の独善が暴走して、今回の悲劇を招いたというところが興味深い。このあとは、小野が本当に悪人なのか、彼なりの正義を持っているのかが描かれるだろう。少なくとも、善悪はそれほど単純ではない。

 

そして、この事件が主人公のひとりである鶴丸に重い十字架を背負わせることにもなった。

 

あまちゃん』のスナックのようにアウトレイジな井伊家の評定

井伊家の評定に集まる家臣団が凄まじい。

 

まず、座長(当主)が杉本哲太。居並ぶのは宇梶剛士吹越満筧利夫刈谷俊介、そして、でんでん。ご隠居が前田吟。お坊さんでも小林薫

 

同じキャストで北野武がヤクザ映画を撮れそうだ。このあたり、とても戦国時代的なリアリティを感じる。女性大河の華やかさと一線を画し、イケメン優男が登場しない。非常に挑発的なキャスティングになっている。

 

実は朝ドラ『あまちゃん』のスナックに集まるメンツもかなりアウトレイジだった。実際、杉本と吹越は両方に顔を見せている。

 

宇梶は初回で退場するが、それくらいでは色褪せない。でんでんなどは、まだセリフが無い。座っているだけでも恐ろしい。

 

井伊谷を完全再現

隠れた見所は、オープンセットとCGを組み合わせて井伊谷の完全再現に挑んでいるところ。

 

当然、現在の井伊谷は建物は現代的に変わり、宅地や農地の分布も当時とは多少、異なっているが、山並みや川の流れなど当時を彷彿とさせる地形が残っている。さすがに現地でロケをするわけにはいかないが、かなりの精度で戦国の井伊谷を再現している。

 

特に山城・井伊谷城から見える景色の再現性の高さは素晴らしい。

 

井伊谷という狭い天地が主な舞台となるこのドラマにとって、舞台設定のディティールというのは純文学的に重要になってくるのだろう。

 

もうひとつ、これは、「聖地巡礼」を意識していると思う。ただし、アニメや現代劇ではよくあるものの時代劇でやるのはかなり挑戦的だ。

 

2年連続国衆大河

『おんな城主直虎』は、『真田丸』に続いて国衆と呼ばれる地方の小領主が主人公だ。天下取りの物語ではない。真田がちらちらと天下を垣間見ることができたのに対し、直虎はそんな機会すらない。目線がとても低いのだ。

 

これは時代の空気を反映しているのだと思う。地方の時代。そして、天下を目指さない身の丈の幸せだ。

 

もう少し踏み込んでいうならば、この物語は自治権拡大の闘争の物語だ。

 

『花燃ゆ』『西郷どん』と中央集権国家を築く明治維新を描いた大河ドラマに挟まれて、地方分権の大河が2本続く。そういう見方はうがちすぎだろうか。

 

骨太ストーリーでどこまで引っ張れるか

聞くところによると、第4回までは子役で引っ張るということらしい。主役の柴咲コウはもちろん、三浦春馬高橋一生も登場しない。つまり、強面のおじさんたちで引っ張るということだ。

 

「キャスティング優先で脚本軽視の作り方がドラマをつまらなくした」と言うのは簡単だ。しかし、「脚本がよければ、キャスティングは2の次だ」と言えるのは部外者だから。実際にやるのは本当に怖い。

 

そして、歴史の本流から遠く離れた井伊谷でどこまで粘れるか。大河ドラマファンには、歴史の年表が気になる人が大勢いる。有名俳優は出なくても、有名武将は出せという人も大勢いる。

 

過去の女性大河では、歴史の空白を利用して主人公を有名人に会いに行かせてぐだぐだになる、なんてこともあった。かといって、有名人が登場しない、日本の歴史がどうなっているかも分からない、田舎の片隅のドラマでどこまで引っ張れるのか。

 

「脚本がおもしろけば大丈夫」と簡単に断言できるのは、繰り返しになるが部外者だからだ。実際やるのは本当に怖い。

 

有名人でいえば、直虎に近い徳川家康今川義元などはキャストが決まっているが、織田信長武田信玄のようなところはまだ発表が無い。出るとしても物語後半、単発ゲストのような形か。あるいはカメオ出演程度で済ませてしまうのか。

 

史実の直虎の活動範囲は狭く、静岡県西部にほぼ収まる。有名人もあまり出ない。とても地味である。非常に不利な設定だ。

 

どこまで愚直に狭い井伊谷の物語を突き詰められるのか、期待して見守りたいと思う。

 

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