汽水域 Ki-sui-iki

ローカルとオルタナティブ 浸透し混じり合うところに生まれる生態系

浸食する埼玉 南限のぎょうざの満州を行く 高円寺編

スタバは無いが、ぎょうざの満州はある街。それが高円寺。

 

形骸化した県境を越えて、南への浸食を続ける埼玉。その最前線を探る指標となるのが、山田うどんと並ぶ埼玉のソウルフード、「ぎょうざの満州」である。

 

西武新宿線沿線で停滞している山田うどんに対し、ぎょうざの満州はさらに南へ浸食している。

 

その南限は中央線。中野、高円寺、荻窪、武蔵境、東小金井とぎょうざの満州がラインを形成している。まさにここが埼玉のゲインラインだ。

 

蒲田の山田うどんに続く、浸食する埼玉第2弾。今回は、南限のぎょうざの満州がある街、杉並区高円寺を訪ねた。

 

 

高円寺の駅を降りる。北口に出る。目の前はロータリー。駅ビルの2階はデニーズになっている。そして、看板を背負ったビニールのジャンパーの男が何かを売っている。

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高円寺は昔からアンダーグラウンドなカルチャーの街。ロータリーを右手に向かうと個性的な居酒屋、飲食店がずらっと並んでいて、その先には杉並芸術会館「座・高円寺」がある。

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かといって、チェーン店を寄せ付けない街というわけでもなく、左手を見ればミスド富士そば、てんや、松屋と並んでいる。

 

しかし、ぎょうざの満州はその並びには無い。

 

まず、正面の「高円寺純情商店街」に向かう。入り口にゲートは付いているが、その先はアーケードではない。車一台ほどの狭い幅の道の両脇に間口の狭い店がみっしりと並んでいる。

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お酒の買い取り「リカーオフ」がある。さらに進むと古着買い取り「モードオフ」がある。どちらも「ブックオフ」のグループだ。名古屋に質屋が多いのを思い出す。買い取りの店が多いというのは、なんらか特殊な経済の街だろう。

 

しかし、ぎょうざの満州は商店街の並びには無い。

 

一番奥まで抜けて、突き当たりを右へ。2階に「石川歯科クリニック」があるビルの1階が餃子の満州である。上の歯医者の方が目立っていて、一瞬、見落としそうになった。

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中に入ると、思ったより奥行きがあって広い。椅子、テーブルは簡素。中年の男女がフロアを仕切っている。もしかするとフランチャイズ経営かもしれない。

 

BGMは、スピッツの「ロビンソン」が電子音のインストで流れている。スーパーでも管楽器だが、ここはシンセサイザー風の音色だ。

 

客を見ると、サラリーマン、老人、作業員などがばらばらといるが、奥の席には母親と未就学児の家族が二組いる。

 

席に座ると、水と一緒にタレ入れの小皿が運ばれてくる。マスコットキャラクターの少女のイラストとともに「3割うまい!!」の文字。3割とは微妙だ。そして、小皿は今なのか。

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メニューを見る。当然、最初に餃子が来る。「国産100%」のアピール。そして、チャーハン、ラーメンと来て、レバニラ炒め、野菜炒めもある。前回の山田うどんは、ほぼ小麦粉と米だけだったが、ぎょうざの満州は炭水化物以外を摂取できるメニューがあり、野菜を多く摂る組合わせも可能だ。

 

そして、裏面にはお土産販売も。

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大盛エビ入りチャーハンと餃子(842円・税込)を注文。値段は安い。そして、チャーハンを「エビ入り」にするグレードアップが可能だ。山田うどんが値段と量(カロリー)がほぼ比例していたのに対し、質的なグレードアップにお金を積めるようになっている。まあ、もちろん「エビ入り」でしかないが。

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ちなみに、チャーハンにはスープとザーサイが付く。

 

餃子は実がたっぷり入っていて、まるまると太っている。肉汁もきちんと中に収まっている。実はキャベツがたっぷり入っているのが、しっかり甘い。キャベツを美味しく食べさせるのはB級グルメの神髄だろう。もちろん、餃子はいくらでもリッチに作れるが、チェーン店の餃子としては十分だ。「3割うまい」もうなずける。

 

ふと壁を見ると「店長のおすすめ」が貼ってある。餃子ではなく「満州ラーメン」だ。ぎょうざの満州なのに。値段は税抜きで380円。これは安い。

 

しかし、ハーフ麺が350円と差額が30円しかないので、おそらく麺の原価は非常に安い。そして、スープも工場で濃縮版を作って、店で寸胴の大鍋で温めるだけなら原価を圧縮できる。そして、スープはある程度の数を出せた方がコスパは上がるだろう。

 

餃子やチャーハンに比べれば手間と時間も省けそう。それなら、おすすめするのも分かる。

 

ここらで醤油と酢とラー油をインサートしてみる。

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ぎょうざの満州のセールスポイントは「5つのF」だそうだ。ファクトリー、ファーム、フレッシュ、フューチャー、ファミリー。

 

ざっくり言うと、供給側の契約農場一括仕入れと工場一括製造で品質管理とコストダウンをきっちりやり、ファミリー層へ向けてアピールしていく、ということだろう。ポエミーかと思ったら、意外と実務寄りの宣言だ。

 

ぎょうざの満州のメニュー構成からは、確かにファミリー層を意識していると感じさせるところがある。山田うどんほど露骨に炭水化物の量=値段ではないし、油・濃味・カロリーの中華でもない。ただし、「バーミヤン」のように本格中華をファミレスにグレードダウンさせたのではなく、あくまで街場の定食屋さんをチェーン展開にスケールアップしたようなコンセプトだろう。

 

その意味では、どこまで本気でファミリー層を取りに行っているか分からない、不思議な立ち位置ではある。メニュー開発もファミレス的なバリエーションは無いし、店舗の雰囲気もおっさん臭が漂う。(もっとも、商品管理の容易さと簡素な内装がコストダウンに貢献していることは言うまでも無い。)

 

しかし、この「偽装ファミリー層向け」姿勢が、山田うどんに先駆けての西武新宿線から中央線への進出を可能にしたようにも思える。少なくとも、単身男性向けのファストフード店の競争の中では、他店との差別化を可能にしているのだ。「意外と野菜も摂れる」のである。

 

ぎょうざの満州の一見中途半端な脱単身者・ファミリー路線が中央線カルチャーにフィットしたのかもしれない。ただし、「東京で一番住みたい街」といわれる中央線の巨魁、吉祥寺には、まだ進出できていない。

 

そして、中央線を越えるといよいよ世田谷区である。埼玉にとっては巨大な敵だ。なにせ、自然は無いのに区の名前を冠した「自然食品」の会社があるくらいなのだから、埼玉とは別の意味でとんでもなくクレイジーであるに違いない。

 

平日の昼下がり、高円寺の裏通りで思う。街は思いのほか、静かだ。

 

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