汽水域 Ki-sui-iki

ローカルとオルタナティブ 浸透し混じり合うところに生まれる生態系

浸食する埼玉 南限の山田うどんを行く 蒲田編

埼玉の首都は池袋です。

海を目指して南へ南へと浸食を続けているといわれる埼玉。地図の上に引かれた県境などもはやあてにはならない。すでに東京にも深く埼玉が浸透している。真の東京・埼玉県境はどこなのか。

その指標となるのが、埼玉のソウルフード山田うどん」である。埼玉の進出した先には、必ず山田うどんがある。埼玉の最前線の現場を見ようと、南限の山田うどんがある街、大田区蒲田を訪ねた。

 

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蒲田には二つの駅がある。JRと東急が乗り入れる蒲田駅と、羽田空港から直通で大井競馬場に近い京急蒲田駅山田うどん蒲田店は、蒲田駅の方にある。

 

この日は東急池上線で、だらだらと蒲田に向かった。

 

東急も旗の台を過ぎると、雰囲気が一変する。子供が増える。子どもの顔のデッサンが甘くなる。全体に下町の雰囲気が出てくる。

 

もともと大田区は中小の町工場の多い工業地帯だ。京急蒲田になると労働者の街という色合いが強まる。競馬場があることも手伝って、治安に不安を感じるような雰囲気もある。一方の蒲田駅も、街のカラーは京急と異なるものの洗練された都会的な雰囲気ではない。

 

旗の台から数えて11駅目、池上線の終点が蒲田である。蒲田駅の構内、いわゆるエキナカの立ち食いそば屋を見つけた。名前は「渋谷・しぶそば」。同じ東京都区内にありながら、「渋谷」がブランドになり得るということに一抹の不安を感じる。

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蒲田駅は、JRと東急の駅が「くの字」に交わって、駅の上に駅ビルを背負い、その前がロータリー状の広場、駅のない広場の残り2辺から古い商店街が奥の方へと延びている。

 

「SUNRISE KAMATA」という看板のアーケード商店街の奥に、山田うどんはある。

 

入口の携帯電話安売り店は、店員がサンタクロースの格好でキャンペーンをしている。歩道にキャンペーングッズを陳列して、警官に注意を受けていた。

その次の店は、富士そば。山田のライバルになり得るのではないか。富士の方が立地がよさそうだ。

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アーケードの奥に進む。休日ということを差し引いても買い物客は多く、にぎわっている。

店先で液晶ディスプレイの修理の相談をしているおじさんがいた。サラリーマン社会では考えられない「裏側」の見せ方だ。代々続く小売商店ならではの鈍感さだろう。このような元ガキ大将風のおじさんがあちこちに見られる。

アジア系の外国人らしき家族連れも多い。なるほど、町工場地帯の古い商店街という感じ。

 

そのうちに、てんや、サンマルクカフェと並んで、山田うどんの黄色い看板が見えてきた。

 

昼時にかかっていたためか席の空きは少なく、入口近くのカウンター席に座った。自動ドアが開閉するたびに外から寒気が入ってくる。これは失敗だった。

 

店内は1階にテーブルが4つほどと10人ほどかけられるカウンター席。2階にも席があるようだ。店員は中国人と日本人のおばちゃん。パートだろう。マニュアルを厳密に守っていなさそうだが、ほどほどに気が利きかせて店を回しているのが、おばちゃん的だ。

 

店内の壁、そしてカウンターのパーティションには隙間無くカラフルな商品紹介のポスターが貼ってある。ももいろクローバーZの高城れにがプロデュースする期間限定メニューが目を引いた。「デミうどん」と「デミごはん(ハヤシライス)」。ラジオ番組とのタイアップ企画らしい。はたして、山田うどんの客層はアイドルのファン層と重なるのだろうか。

 

メニューを手に取って見る。チェーン店なのでどこも同じだ。とにかく安い。うどんは280円からある。そして、そば、ラーメン、ご飯ものと無節操にメニューが豊富だ。セットメニューもあるが、単品のレパートリー上、「うどんに丼もの」のように「炭水化物+炭水化物」の組み合わせにしかならない。

 

結局、曜日替りの「ミニカツ丼+うどんセット」(500円)に、「山田名物」の文字に引っ掛かって「パンチ(もつ煮込み)」(400円)を注文。合わせても900円。しかも、税込みだ。

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実際食べてみて思ったのは、「量が充実している」ということ。腹一杯食える。ラグジュアリーな方のお得感は当然まったく無いが、量に対するコストパフォーマンスはすこぶるよい。

 

それから、もつ煮込みをたのんだのは正解だったと思う。これが無いと、うどんにご飯でさすがに口がおかしくなるところだった。

 

とにかくおかずメニューは限られている。他にあっても餃子だから、これも炭水化物が入ってくる。昭和の日の丸弁当的な炭水化物偏重だ。

 

東京的な価値観からすれば、埼玉も蒲田も「対義語」に位置づけられる土地かもしれない。しかし、自動車社会で国道沿いの郊外型チェーン店文化の埼玉と、下町商店街が残る蒲田も対極の関係にある。地方に行けば、郊外型チェーン店が商店街を衰亡に追いやることが、すでに数十年前から多数起きている。その意味では、埼玉と蒲田が直接の仇同士と考えた方がよいのかもしれない。

 

その蒲田に山田うどんが乗り込んで、商店街の中に馴染んでいるのは非常に興味深い現象だ。

 

蒲田と埼玉を結ぶものはなんだろうか。

 

根拠はないが、炭水化物に炭水化物を重ねる昭和的な日の丸弁当文化ではあるまいか。「安くカロリーをたくさん摂れる」ことへの信仰。

 

以前、中国から来た技術者が日本では見かけなくなった日の丸弁当を持ってきていて驚いたことがある。ずっと時代をさかのぼって、江戸時代の都市に住む労働者はおかずのほとんど無い米飯のみの食事だったという話も聞いたことがある。

 

高度成長期と都市の拡大、それと炭水化物への信仰。そうしたものが、蒲田と埼玉を結ぶカギのような気がしているが、確かなものは何もない。

 

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