汽水域 Ki-sui-iki

ローカルとオルタナティブ 浸透し混じり合うところに生まれる生態系

ペンタゴン・ペーパーズ 最高機密文書

メリル・ストリープのための映画。

新聞創業家に生まれ、父や夫の死ではからずも社長になってしまったお嬢様が重大な決断をくだすまでの物語。彼女が弱い女性だからこそ、その繊細な心の動きを表現するのは難しい。

 

そして、トム・ハンクスは相変わらずの粗暴なトム・ハンクスで期待を裏切らない。25セントのレモネードを50セントで売ったのも、巨悪を倒すことに劣らずよい仕事だ。

 

ニクソン政権時代を描いた作品の背景は、日本の政治状況ともよく一致する。この映画の封切りに合わせたPRではないか、というほどに、よく。ハンクス演じるベンは、

「朕は国家なり」

という言葉を引用して、政権を批判する。メディアのあり方の問題ではなく、国家とは何者であるか、という根源的な問いかけだ。

 

そして、この物語には悪者が登場しない。凶悪なニクソンを除いては。多くの人は、ストリープ演じるキャサリンと彼女が家族から受け継いだ新聞社を守るために行動する。告発の対象となるマクナマラ前長官ですら、そうだ。

しかし、そのことがスクープ掲載に向けて大きな妨げになる。家族を思い、友を思い、皆の平穏な暮らしを願う心が、巨悪をのさばらせるという矛盾だ。そうした、家族を拡大した共同体が持つ臆病さこそが、最大の敵なのだ。

 

本当の友というのは、あなたが彼の提案とは反対の決断をしたときに、その決断を支えるために力を尽くしてくれる人のことだ。だから、安心して共同体の臆病さを断ち切って決断をしなさい。メリル・ストリープのように。