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【プロ野球】好調巨人の来季に不安あり ギリシャ破綻と同じ轍を踏むのか

レギュラーシーズンの佳境を迎えたプロ野球では、読売ジャイアンツが好調だ。勝率も5割を超え、逆転でのクライマックスシリーズ進出も視野に入ってきた。しかし、その陰で常勝軍団再建という大目標からは遠ざかっている。

 

 

好調の要因は2番マギー

好調の要因はオールスター明け以降の打線のてこ入れだ。本ブログでは開幕直後から巨人低迷の原因を得点力不足、特に1、2番の低い出塁力と指摘し、改善策として「2番坂本」を提案してきた。実際に2番に入ったのは坂本でなくマギーだったが、OPS出塁率+長打力が高い坂本・マギーを2番、3番に並べるコンセプトは本ブログの提案と本質的に同じものだ。

投手陣はもともと悪くない。菅野、マイコラス、田口の3本柱は12球団屈指。4人目以降の先発は試行錯誤が続いたが、新人の畠が4本目の柱と言ってもいいほどの活躍を見せている。これも、3本柱の安定感がもたらしたボーナス効果と言っていい。

リリーフもそれほど悪くない。失敗の目立つポジションなので批判も多いが、他球団と比較すれば及第点以上だ。勝ちパターンのマシソン-カミネロに比べて負けパターンの救援陣の力が落ちるが、他球団もそれは同じなので取り上げるほどの問題ではない。

前半戦は、序盤にリードを許す展開が多かったため、早いイニングで先発に代打を送り、中継ぎ陣が痛打を浴びるパターンが多かった。しかし、後半戦は先制点を先発が守り、直接、勝ちパターンの救援陣につなげるパターンが多いため、力の落ちる投手が登板する機会自体が減っている。打線強化の好影響が投手陣に波及していると言えるだろう。

 

打線強化の要因は、2番二塁マギーというウルトラCに尽きる。レギュラーを固定できなかった二塁手にマギーを移すことで、出番が限られていた村田が三塁で先発。阿部・村田・マギーを同時に起用できるようになった。1番に中堅で入った陽は数年前に若返ったかのような好調ぶり。それに首位打者も視野に入れるマギーが2番で続くことで、1、2番の出塁率が大幅に改善し、坂本、阿部、村田と続くクリーンナップに走者を置いて繋ぐことができるようになった。陽とマギーは長打力もあるため、二人で得点を奪ってしまうこともできる。下位打線から上位に繋がればビッグイニングを作ることもできるようになった。

好不調の波の激しい長野も6番に置けば驚異。さらに、若手のチャレンジポジションだった左翼には実力者の亀井を入れて7番と、隙の無い打線を形成した。

 

ベテラン中心打線では来季に不安あり

とはいえ、長い目で見れば、これは応急処置的な強化策でしかない。9月に大型連勝をしてもリーグ優勝には届かない。クライマックスシリーズから下克上で日本一に輝くチャンスは残っているものの、資本力の乏しい千葉ロッテのようなチームとは違い、球界の盟主として横綱相撲を目指すジャイアンツにとっては本来目指す勝ち方ではない。やはり、来季以降の王道野球復活に繋がる勝利で無ければ意味が無い。

その意味で、若手のチャレンジポジションだった二塁、中堅、左翼にマギー、陽、亀井を入れた即効打線では将来に憂いが残る。来季も開幕から同じ打線が一年間働ければ優勝も現実的なものになる。しかし、平均年齢の高い打線が全員揃って今季と同じ活躍ができる保証は無い。何人かは成績を落とし、全体で見ればパワーダウンになると考える方が妥当だ。

今季もシーズン通じて安定して働いたのは坂本とマギーくらいなもので、陽、村田、長野、亀井は理由はそれぞれだが活躍できない時期があった。好調の時期だけ取り上げて来季の通年の働きを期待するのは無理がある。

そして、阿部慎之助の加齢の問題はチームにとって深刻だ。まだまだ第一線で活躍できる選手ではあるが、数年前から見れば衰えは明らかだ。大看板を背負わせ続けるのは阿部のためにもならない。タイガースが鳥谷を下位打線に移して復活を促したように、阿部の消耗を抑え効果的に活躍できるようにより限定的な役割を用意するべきだろう。

若手に厳しい環境の中でも打者では宇佐見、投手では畠といったホープが活躍して注目を集めているが、来季のブレークを計算に入れてしまっては取らぬ狸の皮算用になるだろう。人気球団では若手のわずかな活躍が過剰な期待を生み、選手を押しつぶしてしまう。タイガースでは将来を担う長距離砲と期待を集めた原口が伸び悩んでいる。近年好調のカープではこの程度の活躍をする若手は入れ替わり立ち替わりどんどん出てくるが、レギュラー獲得には至っていない。宇佐見や畠が一本立ちするには、もう少し我慢が必要になる。来季以降もジャイアンツは勝利と育成のジレンマに悩まされ続けるだろう。

このままでは、来季も計算していたベテラン選手の離脱とそれに代わる若手の伸び悩みという今季開幕時と同じ轍を踏むであろうことは目に見えている。しかも、中心選手がまたひとつ年齢を重ねることによって、今季より状況は悪化しているだろう。

 

FA補強では勝てない日本球界の事情

それを防ぐためには、資金力を最大限に生かした継続的な移籍による選手補強が求められる。しかし、メジャーリーグに比べると日本球界では環境的に難しい。選手の流動性が低く移籍市場が不活発であることが要因だ。

制度的な問題もあるが、根本的には球団数の少なさに帰結できるだろう。球団数が多ければ捨てる神だけでなく拾う神もあるが、球団の絶対数が少ない環境では球団も選手も積極的に移籍を選択しにくい。

メジャーの金満球団は毎年、旬の選手をかき集めてチームを作り直す。マイナー選手に昇格の目は少ないが、有力選手が抜けて出場機会の多くなった球団へ移籍することがモチベーションになる。

一方、資金力の乏しい球団は高給取りの選手をどんどん放出することでチームの新陳代謝を図る。開幕からチームの成績が上がらなければ、無理に補強を行わずシーズン中でも有力選手を放出して半年早くチーム再建の動きを始め、一刻も早いV字回復を目指す。日本でこういう戦略をとっている球団は日本ハムファイターズくらいだ。ファイターズはこの戦略で一定の成果を上げているが、日本では「血も涙も無い」と批判を受ける。

アメリカの場合は、クビになった選手もどこかの球団が拾ってくれるから、選手も球団も移籍を前向きにとらえられる。そして、捨てる方も拾う方も移籍市場を積極的に利用しようとする流れになる。日本では給料をつり上げるダニのように思われている代理人も、本来の役割は移籍市場での適切なマッチングを助けることにある。

 

ともかくも、移籍市場が不活発な日本球界では資金力のある球団が移籍を通じた選手補強だけで強力なチームを作ることには限界がある。どうしても、ドラフトを通じた補強と選手育成を有効に絡めていかなければならない。

しかも、不幸なことに近年のジャイアンツはブランド力が衰え、フリーエージェント選手の評判があまりよくない。かつてのジャイアンツはFA選手に対して非常に強いブランド力を発揮していた。外様に冷たいという評判を立てられることもあるが、実際にはFAで獲得した高給の選手を引退まで面倒見ることが多く、引退後もコーチとして入閣させたり、全国区の地名度を利用して解説者として身を立てられるようにしたりと他球団よりも福利厚生は充実しているはずなのだ。しかし、その魅力的な待遇がリクルーティングに身を結んでいない。

むしろ、FA選手や逆指名時代のドラフト選手に対する「終身雇用待遇」の裏契約が、球団を圧迫したりコーチ・スタッフの質の劣化という副作用をもたらしているという説もある。

 

屈辱の13連敗で育成路線が後退

ひとつ希望があるとすれば、独自のカラーが見えないと言われる高橋監督が実は若手の起用に積極的であるかもしれないということだ。現在では3本柱の一角として活躍する田口も1年半前は防御率4点台のひどい投手だった。しかし、ベテラン投手の離脱もあってチャンスをもらい、現在では球界有数の左腕に成長した。今季前半戦に若手を1、2番で起用し続けたことも勝利のためにはマイナスだったが、彼らを独り立ちさせることで今後何年も続く常勝軍団化へのきっかけを作りたかったのかもしれない。

しかし、高橋監督は賭に敗れた。球団史上に残る13連敗を喫したことで、勝利優先派の圧力に屈し育成路線は後退してしまった。本来、勝利と育成の両立というのは成り立たず、勝利派と育成派のせめぎ合いなのである。

目先の勝利を優先することは、実質的には未来からの借金と同じことだ。原政権の残した膨大な借金を抱えて船出した高橋政権に残された「与信枠」は少ない。「ソブリンリスク」は大きくなる一方で、若手育成という「緊縮財政」に舵を取るべきなのは明らかだが、痛みを伴うこの政策はギリシャでも巨人でも支持されにくい。債務不履行による国家破綻のときは刻一刻と迫っているのだ。