汽水域 Ki-sui-iki

ローカルとオルタナティブ 浸透し混じり合うところに生まれる生態系

【Bリーグファイナル2017】栃木ブレックス対川崎ブレイブサンダース

 

発足1年目で大きな盛り上がりを見せたBリーグ。ファイナルでは、何度もリードが入れ替わる川崎ブレイブサンダースとの死闘を制して栃木ブレックスが優勝。Bリーグ初代王者に輝きました。ファイナルの流れを振り返り、試合のカギとなったプレイをチェックしていきたいと思います。

 

 

1Q:川崎のピックアンドロールが冴える

川崎はオン・ザ・コート2を選択。得点王ファジーカスに加え、機動力のあるスパングラーが先発。一方、栃木はオン・ザ・コート1。帰化選手がいないため、ビッグマンの竹内がロシターを助けてゴール下を守る。

 

先に主導権を握ったのは川崎。篠山、辻のガードコンビがスパングラーとのピックアンドロールからゴール下に侵入。スクリーナーのスパングラーがゴール下にダイブするプレイも有効だった。辻のスリーで9-5とリードすると、その後も3人を中心に得点を重ねる。

 

f:id:daichi76y:20170608210408j:plain

スパングラー(12)のピックを使って、辻(14)がドライブ。ピックアンドロールでゴール下に飛び込んだスパングラーに合わせるプレー。

 

エースのファジーカスは、栃木の巧みなディフェンスによって、フックシュートのスイートエリアの外側から撃たされたシュートはすべて外れた。オフェンスのファースト・オプションから外れたことも加わって得点が伸びない。

 

一方、栃木はリバウンドからの速攻に活路を見出す。竹内、田臥が連続得点して、13-11。その後、熊谷のスリーが決まって18-17とリードする場面もあったが、全体的には川崎のガード陣を止められず苦しい展開。それでも、須田がショットクロックを叩くスリーを決めて、21-21でクオーターを終了。ファジーカスへの巧みなディフェンスもあり、不利な時間帯を上手く乗り切った。

 

2Q:栃木がディフェンスからリードを奪う

ベンチ選手が多く顔を並べた第2Q。オン・ザ・コート2の栃木はロシターとギブスを並べ、川崎はスパングラーと帰化選手の磨々道で対抗する。川崎・野本のジャンパーで幕を開けたが、その後はロースコアの展開。

 

残り8分、田臥を戻したところから栃木が走る。オフェンス・リバウンドからロシターが決めると、古川のスリー、ギブスのローポストからのアタック、古川のジャンパーと9-2のランを見せ、残り4:48で32-27のリード。

 

f:id:daichi76y:20170608210321j:plain

ロシター(32)、ギブス(4)と経由してシューターの古川(25)にシュートを打たせるプレイ。外国人ビッグマンがボール扱いに長けているのが栃木の長所。古川のシュートは落ちたが、ゴール下に飛び込んだロシターがリバウンドを押し込んだ。 

 

川崎は篠山とファジーカスを戻して粘るが、栃木は古川の2本目のスリーが決まり、残り39秒で43-35と最大リードの8点差。川崎はファジーカスがフリースローを2本沈め、43-37の6点差に戻して前半を終えた。

 

栃木はロシターがオフェンス・リバウンドから2本決め、川崎のハイパワー・オフェンスを16点に抑えるディフェンスを見せた。ディフェンスとリバウンドで主導権を握るのは、栃木得意の展開。

 

一方、川崎は苦しいところでファジーカスのローポストからの得点が復活。後半に望みが繋がった。

 

3Q(-4:22):インサイドで優位を取った川崎が逆転

川崎は後半最初のプレーを辻のドライブから始める。ピックを2枚使いながらコートを左から右に大きく移動してディフェンスを動かすと、最後は左コーナーで完全にオープンになった篠山にパス。篠山が余裕でスリーを決めた。

 

f:id:daichi76y:20170608210520j:plain

辻(14)が3枚のスクリーンを使ってドライブ。ディフェンスをペイント内に集めると、左コーナーで待つ篠山(7)にパス。完全オープンの3点シュートを作り出した。 

 

デザインされたプレーで得点を奪った川崎は、ディフェンスでも激しさを増し栃木オフェンスのリズムを奪う。そして、竹内とマッチアップする磨々道がスピードのミスマッチを突き、最初の4分で6点を奪う活躍を見せる。

 

一方、川崎のディフェンスに苦しむ栃木は、ロシターのブザービート・フェイダウェイ、田臥の2本のジャンパーなどで際どく繋いでいく。川崎としては、田臥の外角はある程度捨てているので、ゲームプランとしては成功している。

 

f:id:daichi76y:20170608210631j:plain

シューターの古川(25)が右サイドに流れると見せかけて左ウイングでもらうプレー。 篠山が田臥(0)を捨てて古川のチェックに出てたため、田臥がコーナーでオープンになった。

 

6:10に栃木は古川のジャンパーで51-48とするが、ここから4分半以上フィールドゴールが止まることになる。

 

川崎はファジーカス得意のベビーフックと篠山のジャンパーで、5:27に52-51と逆転に成功。そこから、ファジーカスが2回のシューティング・ファウルから得た4本のフリースローをすべて決め、4:22で56-51とこの試合最大のリードを奪う。

 

3ファウルでロシターをベンチに追いやられた栃木は、ファジーカスへの対策が見つからない。ローポストからゴール下へ侵入されてのベビーフックの精度は高く、タイトに当たればすべてファウルになる。このまま、川崎が一気に走るかと思われた。

 

3Q(4:22-):ギブスのディフェンスが川崎の勢いを止める

栃木は、ロシターに代わって入ったギブスがファジーカスに蓋をする。重さを生かしてファジーカスにペイントへの侵入を許さず、フックシュートの確率の高いエリアの外側からシュートを撃たせる。ファジーカスはポストプレイを捨てて外角からスリーを狙うなど、明らかにギブスとの身体接触を嫌がっている。

 

ギブスは機動力を生かしてオフェンスでも貢献。2度のシューティング・ファウルを稼ぐと、3本のフリースローを沈め、56-54までスコアを戻し、停滞する栃木オフェンスの中で奮闘する。

 

川崎は、篠山のジャンパーと長谷川の速攻からのレイアップで60-54と逃げるが、栃木は1:28に渡邊のタフなスリーが決まり、チームとして4分半振りのフィールドゴールを挙げると、ギブスもゴール下からショットを沈め、60-59と1点差に迫る。

 

しかし、渡邊の2本目を狙ったスリーが外れると、ロング・リバウンドを押えた篠山から藤井、トレイルしてきたスパングラーへとパスが繋がり、バスケット・エンド1。

 

栃木の最後の攻撃は、ゲームクロックと同時にギブスがゴール下からシュートを決めるが、ブザーの後という判定でノーバスケット。

 

川崎の63-59で第3クオーターを終えた。

 

栃木はギブスの活躍で川崎の勢いを止めたが、オフェンスのリズムは戻らず。それでも、ギブスがフリースローを稼ぎ、渡邊のスリーも決まるなどダメージを最小限に抑えることに成功した。

 

4Q(-7:10):ファジーカスの足を狙って栃木が逆転に成功

勝負の最終クオーターは、川崎・藤井のジャンパーで幕を開ける。対する栃木は好調の古川がジャンパーでやり返す。

 

残り8:54、栃木は田臥を戻すと、ディフェンスの足の止まったファジーカスを狙い撃ちにし始める。まずは、トランディション・ディフェンスでできたマークのずれを見つけると、田臥がマッチアップするファジーカスを外に誘い出し、そこからパスを回してゴール下のギブスへ。ローテーションミスを誘発し、ギブスのカウント・エンド1。

 

f:id:daichi76y:20170608210723j:plain

トランディション・ディフェンスで田臥(0)とギブス(4)のマークが入れ替わっている状態。栃木はサイズのミスマッチを持つギブスをゴール下に動かすべく、ポジションをひとつずつずらす。川崎はパスが回る間にマークをスイッチしようとするが失敗。ギブスがゴール下でノーマークに。 

 

続いて、田臥とギブスのピックアンドポップでファジーカスを狙うと、外角からギブスがオープン・ジャンパーを沈める

 

さらに、ギブスがファジーカスをおびき出してスリーを狙う。これは外れるが、手薄なゴール下にロシターが飛び込みフォロー。7:10で栃木が68-67と逆転に成功した。

 

4Q(-4:47):ロシターのファウルトラブルで一進一退の展開に

しかし、川崎は篠山を戻して反撃を開始。ファジーカスがポストプレイからファウルを誘い、ロシターを4ファウルでコートから追い出す。2スローを決めて、69-68と再逆転。栃木は竹内とこの試合初めてゲームに入るブレントンを投入する。

 

ここからは、一進一退の攻防。

 

栃木は入ったばかりのブレントンがローポストから外に捌き、古川のジャンパー。川崎は辻のドライブからパスを受けた磨々道が、ロシター不在のゴール下でねじ込む。

 

栃木はブレントンがオフェンス・リバウンドで繋ぐと、田臥が竹内のピックを使ってディフェンスを混乱させ、ゴール下でロブパスを受けたギブスが決める。川崎は篠山とファジーカスのピックアンドロールから、ゴール下にダイブしたファジーカスがバスケット・エンド1。

 

f:id:daichi76y:20170608210805j:plain

篠山(7)とファジーカス(22)のシンプルなピックアンドロール。栃木は辻(14)、磨々道(25)のマークを外してファジーカスを止めにかかるが、二人のディフェンスを蹴散らしてファジーカスのバスケットカウント。

 

しかし、栃木もギブスが自らのシュートをゴール下で2度拾い、3度目のシュートをねじ込む。残り4:47で74-74の同点となった。

 

栃木は引き続きファジーカスを狙い撃ちにして川崎ディフェンスを引き裂く作戦。一方、川崎はロシターのファウルトラブルで弱体化した栃木のペイント内に積極的にアタックを仕掛けて成功している。

 

4Q(-2:19):栃木のリバウンドが均衡を破る

タイムアウト明けの最初のプレイ、川崎は辻のピックアンドロールからスタート。栃木がこれに対応すると、逆サイドで篠山がピックアンドロールからドライブ。しかし、田臥のディフェンスを振り切れず、タフなジャンパーを落としてしまう。

 

栃木は4:02にロシターを戻して勝負に出る。直後にギブスがファジーカスからスチールすると、ファジーカスがファウル。これがクリアパスのアンスポーツマン・ライク・ファウルとなる。しかし、1点リードからの古川のスリーが外れ、乗り切れない。

 

反対に川崎は、ファジーカスのローポストを前にかぶって守るギブスに対し、篠山が裏にパスを通して、ファジーカスのレイアップをアシスト。残り3:30で川崎が77-76と1点リードを奪う。

 

対する栃木は、左エルボーのギブスにシューターの古川が下からピックに行くプレイ。ギブスがレイアップを決め、78-77と再逆転。続くディフェンスでも、ギブスはファジーカスのポストプレイに対しペイントへの侵入を許さず、シュートミスを誘う。

 

f:id:daichi76y:20170608210949j:plain

古川(25)がギブス(4)からハンドオフを受けて外からジャンプシュートを狙うプレイの裏のプレイ。 川崎は古川を警戒しているため、単純なピックでギブスがリムにアタックするレーンが空いた。

 

栃木の攻撃。オフェンス・リバウンドを2回拾うと、ロシターのハイポストでのポンプフェイクにファジーカスが引っ掛かかる。ロシターはドライブからゴール下に捌いて、最後はギブスが決めた。

 

残り2:19で80-77と栃木のリード。7:56の川崎リード以来、5分半の均衡を破って3点の得点差が生まれた。

 

試合を通してディフェンス・リバウンドをよく確保していた川崎だが、第4クオーターに入って栃木の圧力の前にほころびが現れてきた。一方、栃木は特徴であるオフェンス・リバウンドで重たい試合を動かした。

 

4Q(-0:37):川崎の秘策と田臥スクランブル

次のプレイで川崎は篠山のドライブからキックアウトすると、スパングラーが持ち込んでファウルを誘い2スロー。これを2本沈めて1点差。続くディフェンスでも、栃木のプランを崩し、ロシターにロング・ジャンパーを撃たせてミスを誘った。

 

1:40で79-80の1点差。

 

このポゼッションで川崎は秘策を見せる。この試合、一度も使っていないフォーメーションだ。

 

両コーナーにシューター、トップに二人のビッグマンを配置してペイントにスペースを作る。篠山が2枚のピックを使ってドライブを仕掛けるか、と思った瞬間、スパングラーがペイントにダイブ。篠山のロブパスが見事にオープンのスパングラーに通った。しかし、スパングラーがアリウープをミス。完全に栃木の裏をかいただけに痛恨のミスとなった。

 

f:id:daichi76y:20170608211044j:plain

篠山(7)が2枚のピックを使ってドライブしそうな配置。ディフェンスの意表を突いて、スパングラー(12)がリムへダイブ。アリウープを狙う。

 

栃木はギブスのハンドオフを受けた古川がハイポストからジャンパーを沈める。1:08で82-79と再び3点差。川崎はたまらずタイムアウト

 

次のプレイでも川崎はスパングラーをダイブさせる同じプレイを採用。前のプレイで栃木の対応が悪かったためだろう。しかし、今度は篠山のパスがスパングラーに合わずターンオーバー。作戦の選択は2度とも成功したが、プレイを完遂できなかった。

 

対する栃木は時間を使いながら、右サイドで田臥とロシターのピックアンドロール。逆サイドでは残りの3人がスクリーンをかけ合っており、田臥を右にドライブさせながら、右コーナーとハイポストへ動いたシューター、ペイントにダイブするロシター、逆サイドに居残ったギブスの4人を選択させるプレイだ。

 

しかし、田臥は意表を突いてロシターのピックの面とは逆の左へドライブ、中央からハイポスト付近へ侵入する。川崎ディフェンスを完全に混乱させると、ゴール下のギブスへパス。これをギブスがイージーなリバース・レイアップで決めた。

 

f:id:daichi76y:20170608211110j:plain

ロシター(32)のピックの向き、古川(25)の走るコースなどから、田臥(0)は右にドライブするのが本来の形。しかし、田臥が中央を割ったことで、川崎はドライブとパスのコースを限定することができなくなった。結果として、もっとも危険なゴール下のギブス(4)がオープンに。 

 

残り37秒で84-79の5点差。栃木が優勝を大きく引き寄せた。

 

4Q(0:37-):嫌われるスリー、闘志を見せる田臥

最後のタイムアウトを取った川崎。ファウルゲームを使って、2本のスリーを沈めるだけの時間は十分に残っている。追い込まれたとはいえ、勝機はまだある。

 

川崎は定石通り8秒だけ使って、辻が早めのスリー。しかし、これはリングをなめて外に弾き出される。遠藤のリバウンドにはすぐファウル。

 

遠藤がフリースローを1本外して6点差。残り29秒。2ポゼッションならギリギリ川崎に延長の芽がある。

 

残り20秒、篠山のスリーも嫌われる。リバウンドからのルーズボールを追って、田臥が観客席にダイブ。ボールの軌跡を見れば、マイボールにできないのは明らかだったが、味方を鼓舞するためのあえてのプレイだ。

 

川崎は続く辻、ファジーカスのスリーも外れて万事休す。得意のスリーがすべて外れ、最後の見せ場を作れなかった。

 

試合は85-79のスコアでタイムアップ。栃木ブレックスBリーグ初代王者に輝いた。