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汽水域 Ki-sui-iki

ローカルとオルタナティブ 浸透し混じり合うところに生まれる生態系

【おんな城主直虎】(13)地味がスゴイ!四面楚歌である・井伊直虎

第13回「城主はつらいよ」は、いよいよ新章「城主編」がスタート。

 

領主となった直虎だが、家臣たちの信頼は得られない。そして、井伊家は度重なる出兵ため、財政も火の車で領内も荒れていた。そんなとき直虎は、大商人となった瀬戸方久と再会。財政の立て直しと領民の暮らしの再建のため、方久を家臣として領地を運営させる奇策を提案する。しかし、政次の暗躍により領民が今川に徳政令を訴えに出て、さらなる窮地に陥る。

 

  

地味な井伊家は火の車

井伊家では男たちが次々と命を落とし、重臣も中野直之(矢本悠馬)、奥山六左右衛門(田中美央)と先代と比べれば明らかにスケールダウンしている。ドラマ的にみても、重厚な俳優陣で固めた男性キャストがほぼいなくなり、いろいろな意味で不安を感じる新章の立ち上がりだ。

 

そして、直虎(柴咲コウ)が最初に直面したのは、財政と経済の「双子の赤字」という問題だ。今川による度重なる出兵命令は、井伊の家臣の命を数多く奪ったが、それだけでは終わらない。戦費支出で井伊家の借金はかさみ、戦死した家臣に対するいわゆる遺族年金の支出は財政を圧迫する。一方、戦に男手を取られた農村も荒廃。田畑は耕作放棄され、高利貸しからの借金で年貢納入、返済のあての無い借金地獄に陥っていった。

 

領民から借金を棒引きする徳政令を願い出られた直虎は即断で了承するが、朝令暮改で撤回し、家臣からも領民からも信頼を失ってしまう。南渓和尚小林薫)が「仮名目録」で教えようとしたのは、「徳」ではなく「法」でなくては収まらないこともある、ということなのだろう。にも関わらず、直虎はさっそく失策を犯してしまった。

 

さらに、政次(高橋一生)とともに監視役として派遣された井伊谷三人衆も、単に今川派というだけでなく、近隣領主としてチャンスがあれば井伊領内での利権獲得を狙っている。前途は難題だらけである。

 

政次の毒は方久の毒で制す

井伊家と領民に高利で金を貸している大商人として瀬戸方久ムロツヨシ)が登場。かつては、あばら屋に住み奴隷のような身分で村人に飼われていた男だ。再会したときに、直虎があのときの少女だと覚えていたのは、さすが大商人になる男だ。これも天賦の才能なのだろう。

 

財政と経済の大ピンチを直虎は、方久を家臣に取り立てるというウルトラCで切り抜けようとする。敵であるはずの方久を味方に取り込もうというのだ。

 

商人出身の武将は多くいる。豊臣秀吉に重用された小西行長は堺の商人の出身。備前の宇喜多氏も瀬戸内海と高梁川の水上流通から頭角を現した海賊的武士という説があり、これも商人的な性格が強い。

 

信長の出た勝幡織田氏は、木曽川が伊勢湾に注ぐ地点にある流通の拠点・津島を押えたことで台頭したとされる。そのため、嫡子・信忠の生母を出した生駒氏など商人出身の武士が多くみられる。

 

中世の「道」は江戸時代と異なり、原則的には武士の支配を受けていなかった。水上は当然だが、陸路や港湾、市場などもだ。裏を返せば、武士の提供する警察力の恩恵に預かれないので、トラブルを解決するためにおのずと武装をすることになる。そうなると、商人と武士の境界は非常に曖昧になってくる。

 

直虎が商人の方久を家臣に取り立てたのも、決して特別なこととは言えない。

 

とはいえ、新参者を排除しようとする免疫反応は、あらゆる組織が持つ反射的な反応だ。しかも、井伊谷は後進地域で井伊家は平安時代から続く古い組織なのだ。方久を取り立てようとする直虎に対する風当たりは強い。中野家と奥山家は反小野の急先鋒で直虎与党となるかと思われたが、保守的な彼らは直虎と方久に対するアレルギーが非常に大きい。

 

経済問題だけでなく、今川に魂を売った政次に対峙するための右腕として直虎は方久を引き込んだとも言えるだろう。しかし、方久も善人ではない。社会のどん底から人間の醜い部分を見続け、銭の力で人の心を買ってのしあがってきた男だ。その心には深い闇がある。政次の毒を制すために方久という毒を身中に飼うようなものだ。

 

そもそも、直虎に仕える方久の意図もよく分からない。「井伊家に恩がある」という言葉も額面通り受け止めることはできない。方久にどんな計算があるのか。それとも、利害を超えたところで直虎に惹かれるものがあるのだろうか。その表情からは何も読み取ることができない。

 

華が無い井伊谷三人衆は敵か味方か

今川から井伊の目付として任じられた鈴木重時(菅原大吉)、近藤康用橋本じゅん)、菅沼忠久阪田マサノブ)が本格登場した。リーダー格の鈴木を演じる菅原は刑事役や嫌みな官僚役など悪役テイストの役柄の多い名優。もともとは渡辺正行主宰の軽演劇団『劇団七曜日』の出身だ。橋本は古田新太の『劇団☆新感線』の看板俳優、阪田は人力舎やタイタン所属でお笑い芸人をやっていた。いずれも実力派の役者だが、前田吟杉本哲太筧利夫と比べるとあまりにも小粒で渋すぎる。

 

この三人はのちに井伊谷三人衆と呼ばれ、井伊家の運命に大きな影響を与えることになるらしい。鈴木は、東三河の国衆で井伊の重臣・奥山家の縁戚で直親の母方の親族にあたるらしい。近藤も東三河の出身。菅沼も本家は三河だが、井伊領内の都田に領地を持っていたようだ。

 

いずれも井伊の近隣に領地を持っており、井伊家を監視するとともに、あわよくば役職を利用して井伊領内での利権拡大を狙っているように見える。しかし、同時に彼らも井伊家同様、巨大な今川家の権力に心ならずも従っている小領主だ。桶狭間以降、三河遠江で勃発する反乱を間近で見ながら自らの身の振り方に腐心している。

 

彼らは政次とともに今川方の人間として現れたが、今川と一心同体ではない。条件が整えば、今川を裏切るかもしれないし、直虎の味方になるかもしれない。もちろん、今川の敵が井伊の味方とは限らない。井伊家中も直虎と政次の間で分裂しそうな気配だ。井伊の味方は直虎の味方ではない。そして、徳川も敵になるのか味方になるのか。

 

敵の敵は味方ではない。味方の味方も敵かもしれない。

 

最大野党・新野屋敷

しの(貫地谷しほり)となつ(山口紗弥加)の姉妹は息子を連れて新野屋敷で暮らしている。新野家は直虎の母・祐椿尼(財前直見)の実家でもある。母方ではいとこ同士の虎松と亥之助だが、父方で見れば三代にわたる仇敵の井伊と小野の跡継ぎだ。一緒に育った二人が相剋する二つの家の運命を変えることができるか。

 

そして、跡を継ぐ男子のいない新野家の三姉妹が登場。奥山の姉妹と五人の女がひとつの屋敷で暮らしている。男たちの井伊屋敷と女たちの新野屋敷が対比的に描かれていくのだろう。二つの屋敷は井伊家の表と裏であり、もしかすると両輪であるかもしれない。そして、井伊家の運命を動かすのは政治の場である井伊屋敷ではなく新野屋敷の方になるかもしれない。

 

そして、男たちの井伊屋敷にいる直虎は女たちの輪に入っていない。虎松の母・しのは直虎に対するわだかまりを拭いきれずにいる。四面楚歌の直虎にとって、新野屋敷も今はやはり敵である。しかし、もっとも頼れる味方になるのは、どの男たちよりも彼女たちなのかもしれない。

 

 政次はどこにいくのか

トリニティのひとり、直親(三浦春馬)が舞台を去り、新章は直虎と政次の対立の物語となった。3は安定、2は対立を暗示する数だ。二人の間に溝ができても、三人であればその溝が致命的になることはなかった。

 

政次は直虎が虎松の後見となることを認めるが、それは政治経験の乏しい直虎の自滅を狙ったものだ。そして、徳政令を使って井伊家にさらなる揺さぶりをかけようとしている。

 

政次は何を目的にしているのだろうか。今川の力はいまだ強大であるとはいえ、それが未来永劫続くわけではない。誰もがいつ今川を裏切ろうかと腹の中で思いながら過ごしている。なぜ政次ほどの知恵者が今川に盲従するのだろうか。

 

直親を失った政次は、希望を持つことをやめてしまったのかもしれない。目的を持たず、ただ機能を提供する機械として生きているのかもしれない。それとも、何か秘めた目的を持っているのだろうか。

 

今川の手先として悪役に徹する政次には身を焼き尽くすほどの良心の葛藤があるようだ。政次には自分が悪であるという強烈な自覚がある。だから、善人を自認する者どもが無自覚に直虎を苦しめることに怒りを感じているのかもしれない。

 

直虎の思いを誰よりも正しく汲むことができるのは政次なのだ。そして、直虎を助けることができるのは自分だけなのだと政次は知っている。直虎が助けを求めれば、政次の心を溶かすことができるのかもしれない。それとも、直虎が政次を拒むことがかえって彼の中にわずかに残った人間の心に自分のいるべき場所を思い出させるのだろうか。

 

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