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神在月ってなんですか?縁結び、出雲王朝からハロウィンまで(後編)

旧暦の10月は神無月と呼ばれますが、出雲地方でだけは神在月神有月)と呼んでいます。毎年旧暦の10月になると日本各地の神さまが一斉に出雲大社に集まり、日本中で神さまが「無」くなり、出雲にだけ「在」るためだと言われています。

後編では、出雲大社の信仰のルーツにより深く切り込んでいきたいと思います。

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 前編はこちら

 

竜蛇伝説

神在月になると、神の使いとして竜蛇が現れる、という伝説があります。

この頃の出雲地方は北西の季節風が強く吹き、天候が荒れます。これを「お忌み荒れ」と呼びます。そして、セグロウミヘビと呼ばれる南方に住む海蛇が海流と季節風の関係で、出雲大社周辺の浜に打ち上げられることが古くからあったそうです。

 

神在月に、神さまは海からやって来ます。古代には現代より船による交通が一般的だったということもあるかもしれませんが、海の向こうに異界を見る出雲の信仰の影響もあるように思います。

 

神話によると、素戔嗚尊スサノオノミコト)が父神に与えられたのは海原です。そして、スサノオは冥界の王であるともいわれます。つまり、海原は冥界である。ここには、天と地底に異界を見る縦構造ではなく、海の果てを異界、冥界とする水平構造の世界観が反映されています。

 

これは、沖縄のニライカナイによく似ているかもしれません。

 

わたしのルーツである島根半島の村では、人が亡くなると浜から沖へ魂を乗せた船を流します。また、隣り村には、若者が人々の顔に墨を塗って歩く小正月の行事が伝わっていますが、沖縄や奄美の島々にもよく似た行事があるそうです。

 

 冬のはじまりを告げる祭

神在祭は年によって異なりますが、おおむね新暦の11月に行われます。二十四節気立冬が11月8日です。洋の東西は変わりますが、ハロウィンは10月31日の夜に行われるのが正式です。いずれも時期は同じ頃、冬の始まりを示す行事がその起源なのでしょう。

 

冬の始まりに「この世のものではないもの」が現れる、という意味では、ハロウィンと神在祭は非常によく似ています。もちろん、両者に直接の関係はありませんが、人類のとても古い信仰の記憶に基づいたお祭りなのかもしれません。

 

神在月新嘗祭

先々代の出雲大社宮司で第82代出雲国造の千家尊統は、「神在祭の起源は、古伝新嘗祭に向けて身を清めるための物忌みではないか」と言っています。

 

古伝新嘗祭は、出雲大社でもっとも大切な行事で、もともと旧暦11月の卯の日(日付に十二支を配したもの。卯の日は1日から16日までのどこかにあたります。)に行われていたそうです。11月23日の勤労感謝の日のルーツが皇室で行われる新嘗祭だとされていますが、こちらも古くは旧暦の11月2巡目の寅の日に行われていたそうです。いずれも新暦でいえば年末の頃にあたります。

 

現在、各地で行われている新嘗祭は収穫祭という側面が強調されていますが、おそらく時期的にみてこれは本来の意義ではなく、冬至のお祭りがそのルーツであるように思います。

 

つまり、太陽の力が一番弱くなる冬のまっただ中に、神さまと同じ食事をいただく「相嘗」を通して、神の代理人である神官が霊的なエネルギーを充填する、という儀式なのだろう、ということです。

 

神在月から古伝新嘗祭への流れというのは、冬という季節に密接に関わりのある祭祀です。冬の祭祀が象徴しているのは、春からの活動期を迎えるにあたって、「準備をする」「エネルギーを蓄える」ということであろうと思います。

「冬」の語源は「増ゆる」だという説もあります。そう考えると、とても興味深いですね。